「えっ?」
 仁美先輩は女子からのやっかみがありそうだけど、何もかもが完璧な菅野さんも?
 信じられなくて、ココアの入ったカップを両手で持ったまま、私は目をパチパチさせてしまった。
 途端、会長と仁美さんが噴きだした。
 月見さんは困った顔をした。
 マモルさんは苦笑し、菅野さんがぐったりと疲れたように天井を見上げた。
 唯一、ケイさんが元気よく「そうよ。凄かったぜ」と曇りのない顔で笑った。
「まあ、俺のは過去の話だから。すっごく過去な。だから、心配そうな顔しないで」
 菅野さんはそう言うと、私に微笑んだ。
 菅野さんの微笑みを独り占めしてしまった私は、カッと熱くなる頬を隠したくて俯いた。
 胸が痛いほど高鳴った。
 菅野さんがモテる理由がよくわかる。
 一緒にいると、誤解しちゃいそうになる。
 世界で一人、菅野さんに特別大切にされているようで、フワフワした気持ちになってしまう。
「今日は頑張ったな」
 立ち上がった菅野さんが、私の頭を撫でてくれた。
 少し遠慮がちな力加減と、優しい撫で方に、のぼせてしまう。
「私たちも被害に遭ったんですけどね」
 リカちゃんがシレッと言った。
「でも、菅野さんに頭を撫でてもらうのは遠慮します」
 ハルちゃんが言い切った。
「私もいらな~い」
 仁美先輩が笑いながら賛成した。
 菅野さんを抜かしたみんなが笑いだす。
「欲しいのは、撫でてもらう行為じゃなくてコレだろ」
 立ち上がった会長が、自分の机の引き出しからファミリータイプのアラレを取りだした。
 みんなが「それです。それ!」と騒ぎだした。
 ただ一人、ヒロさんは「出すの遅いですよ」とツッコミを入れてたけど。
 そんなこんなで、私たちはイジメ体験の話に花が咲いた。
ただし、菅野さんの受けたイジメには一切触れなかった。
 普通なら、盛りあがるはずがない話。
 けど、イジメられた者同士だからこそ、私たち女の子4人は心を預けて話し合えた。
 菅野さんたちは、静かに私たちの話を聞いてくれた。