「もうさあ、私たちには素直になっていいんだよ? 副会長のこと好きでしょ。初めて会ったときに恋しちゃったんでしょ? いい加減認めなよ」
 声をひそめたリカちゃんが、私の肩を両腕で抱きしめてきた。
「そうだよニコ。小学生の途中からずっとニコと一緒だったけど、ニコのそんな乙女顔、初めて見たよ。菅野さんの話になると目を輝かせちゃうし。恩人で特別なのはわかるけど、本当はそれ以上の気持ちなんでしょう?」
 ハルちゃんまで抱きついてきた。
 2人とも、重たいよ。
 態と体重をのせて、無理やり自白させようとしないで。
「2人とも違うって。好きなアイドルや俳優さんと、本気で付き合いたいとは思わないでしょう? 私の菅野さんへの気持ちは、それと同じだよ」
 菅野さんは本気で恋していい相手じゃない。
 私が本気になってしまったとして、菅野さんが本気になってくれるわけないし、迷惑なだけだよ。
 それがわかってるから、本気の恋はしないよ。
「ニコは甘い! 妄想の自由をナメてる」
 ハルちゃんが、ガックリしたように私の肩に顔を伏せた。
「こんな間近にアイドルがいたら、ちょっとは『もしかして私と』って少しは思うでしょ? 思うよね?」
 最後、自分の意見に自信がなくなっちゃったらしいリカちゃんが、ハルちゃんに尋ねた。
「そこはニコだから」
 ハルちゃんは顔をあげると、困ったように笑った。
 列が動いた。
 私たちはそれに合わせて歩きだした。
 横から強い当たりを受けた私は、よろけて列から出てしまった。
 隣には、ゆっくりと移動する深緑の体操服を着た女子生徒たちの列。先輩だ。