昼休み。
 弁当を流し込むように食べ終えた俺は、体育館で行われる1年生歓迎会の最終打ち合わせと、舞台チェックをしていた。
「リューイチは大志に甘すぎるわ。まさか、あんな助け舟を出すなんて思わなかった。あれじゃ詐欺よ。連れの女の子2人が怒るのも無理ないわよ」
 仁美ちゃんが、辛辣な眼差しをリューイチに向けた。
 ピンポイントで焼け焦げを作りそうな仁美ちゃんの視線に耐えながら、リューイチが眉をハの字にした。
「こんな大志を見るの、初めてでさ。なんか、応援したくなったというか、助けたくなったんだよ」
「日向さん、絶対に打たれ弱いわよ。目立つの苦手よ。私と同じで隅っこが大好きなタイプよ。そんな子を生徒会にって……無謀というかイジメでしょう?」
「表舞台に立たせなきゃいいだけだし。雑用はいっぱいあるし。実際、人が足りないし。仁美も気に入ってただろう?」
「それとこれは違うの。全然違うの! 引っ込み思案の気持ちを全然わかってない!!」
 仁美ちゃんが人目を気にすることなく怒鳴った。珍しい。
 リューイチがタジタジになる。
 これはいつものことだ。
 仁美ちゃんは、目立つのが苦手な引っ込み思案だ。
 だから、生徒会メンバーではあるものの、発言はしないと俺たち仲間に宣言している。
 俺たちが無理やり生徒会に立候補させたのだから、多少の我が儘は許される。
 いや、仁美ちゃんの場合は裏方として頑張ってくれている分、表の仕事をしないだけだ。
 仕事量はみんな同じ。
「お前ら、夫婦ゲンカはやめろよな」
 俺はプログラムが印刷された冊子を丸めると、リューイチの頭を叩いた。
「妙案だと思ったんだけどなあ」
 リューイチが腕組みした。
 いや、実際に妙案だよ。
 俺としては、非常に感謝してます。
 お陰で、放課後はニコちゃんと頻繁に会えるんだからさ。
 仮という形で、ニコちゃんは生徒会メンバーに加わり、手伝いしてくれることになった。
 オプションとして、ニコちゃんの友達2人もついてくることになったが、構わない。
 そんなわけで、今の俺は充実感とやる気でみなぎっていた。
 まずは、この歓迎会の進行で、ニコちゃんにいいところを見せるんだ。
「これだから、男子は全然わかってない。朝の一件で校内がざわついてるのは知ってるでしょう? 今日、何回日向さんと大志の関係を訊かれたと思ってんの?」
 プリプリと怒り続ける仁美ちゃんだけど、朝からずっとニコちゃんたちのことを心配し続けていた。
「俺は『生徒会の手伝いはまだ募集てるか』って訊かれたな。しかも、野郎ばっか。魂胆が見え見えだっつーの」
 リューイチが笑うと、仁美ちゃんが腰に両手を当てた。
「こっちはほとんど女よ。しかも、大志がこれまで振ってきた女が大多数。自分のことをちょっと可愛いとか美人とか勘違いしているバカばっか。知らないで通してるけど、もうすでに誤解されてるわよ。大志と日向さんが付き合ってるって」
「ゆくゆくはそうなりたいんだし。俺たちもそれを手伝ってんだし。まあ、いいんじゃないの?」
 のんびりなリューイチの横腹に、仁美ちゃんのパンチが炸裂した。
 リューイチが負傷部分を庇いながら、しゃがみ込んだ。
 リューイチ、かなり痛がってないか?
 仁美ちゃん、もしかして今のって、いつもの手加減パンチでなくてマジパンチ?