正午30分前。
 ほんの少し油断した。
 手が空かない会長のリューイチの代わりとして、たまたま手が空いた俺は教頭に手招きされた。
 そして、合格者と保護者の様子を訊かれた。
 わずかの間だった。
 俺が戻ると、同級生で会計の清水仁美ちゃんが、
「日向にこさんなら、お母さんと受付を済ませて、会場の体育館に向かったわよ」
 と、シレッと報告してきた。
 一瞬にしてやる気を失った俺は、仕事を放棄した。
 リューイチと仁美ちゃんが座るパイプイスの間にうずくまる。
 その間も、リューイチたちは訪れた合格者に対し、長テーブルに置かれた名簿へサインを求めてから、必要な書類を手渡していく。
「ちょっと、本当にウザいんだけど。これから毎日同じ学校に通うんだから、チャンスはいくらでもあるでしょう」
 小学生のときからメガネが必須のツンデレ美人な仁美ちゃんが、名簿を挟んでいるバインダーで俺の頭を叩いた。
「日向さんの受付、私がしたんだけど、とっても可愛い子だったわ。小さくて、素直そうで、目がクリクリしてて大きくて、髪がサラサラでツヤッツヤ。少女漫画によくある『内気なだけで、なぜモテないのかわからない主人公』タイプだったわ。正直、アンタには勿体ない。彼女が親友だったら、絶対にアンタの恋路を邪魔してるわ」
 感情表現が昔から下手な仁美ちゃんが、無表情に近い眼差しで俺を見下ろした。