――――と、


「まあ、俺のほうが上手いってとこの否定はしないけど」




物静かに言葉をおとし始めた翔太を改めて、見上げてみる。

そんなあたしを悪戯めいた微笑で迎えるこの男も、中々どうして性格が捩れている。



しかしながら、あたしが強く感情をぶつけた先刻とは打って変わって。

穏やかとも取れる具合に流れる空気に顔を顰めることで不満を示せば、それすらも小馬鹿にしたような笑みで一蹴されてしまう。





「好美がつくってくれる料理ほど、美味いもんはねーと思うけどな。俺は」

「ッ」

「あら?」








ワザとらしく「俺は」と言葉尻を強調した男に嫌悪感を―――抱くことは、残念ながら無くて。

不覚にも前半にこぼされた台詞があたしの心臓の鼓動を限界まで速めてしまい、その不意打ちに赤く染まる頬は手首を拘束されている所為で隠すことも出来ない。




「もしかして、照れてんの」





故意的に耳元で囁かれた言葉の、なんと甘美なこと。

サディストさながらにあたしを追い詰める翔太を追い遣るように隻手で口許を覆い俯けば、追うようにおとされた微笑が執拗なまでに耳朶を撫ぜ上げる。