「――…ふう」


髪にタオルを乗せ、一息吐き出したあたしは冷蔵庫から一缶のビールを取り出した。

冷えたそれを持ってリビングの戸を潜り直ぐに腰を下ろす。






と、そのとき。


「……もしもし、」

"俺"

「ん、どしたの?」




電話口から響いたのは翔太の声。

それを何気なく耳にしながら、プルタブに指先を引っ掛けた。







"今仕事終わったんだけど"

「うん」

"行ってもいい?"



……、…うん?

一度ゆっくりと目を瞬かせた。えっとそれって、つまり……そういう?






「――…ついにきたか……」

"は?なに、"

「ううん!?何でもない!待ってる!」

"…、……"



不審を抱いていた様子の翔太だったけれど、"了解"と言葉を零すのと同時に通話が途切れる。

待ち受けに戻った自らのスマホを数秒見つめたあたしは。






「ビール、一缶だけにしとこ」


グラスに冷え切った麦酒を注ぎながら心だけは戦闘態勢に切り替えていた。