"はあ?なに言ってんだよお前"

「だっから!いいって言ってんの!別に迎えに来なくてもいいってば」




寒さを感じて両手を合わせて軽く擦りながら、電話口から響く男の声に自分のそれを重ねる。



場所は会社の真ん前。

仕事が少し早めに終わり、さあ帰宅だと意気込んだところで電話が鳴ったものだから驚いた。




しかも、以前友人に変えられていた"黒電話"の最大音量のままだった訳で――、

「(ご、ごめんなさい…)」




思わず行き交う人たちに軽く頭を下げて歩いた。

羞恥に染まる頬は寒さの所為だと胸中で言い訳し、カツンとヒールを鳴らして奥まった場所へと避難。





漸く会話が出来る、と。

すっかり等閑にしていたスマホを再度耳元に宛てがえば、あたしが聞いていなかった内もなにか喋っていたらしい男の声が鼓膜を大幅に揺らした。





「ごめん、ちょっと移動してた――」

"はあ!?おいっ、無事なのかよ!"

「ぶ、無事ってなに!?大袈裟なんだけど!」


先日の再会から"彼氏"になった翔太は、あたしの目が飛び出るくらいに過保護だった。