「ん、」

――"ん、"




嫌だ、嫌だ…!

脳内に流れ込んでくる映像が過去のあたしの傷を抉る。



今のあたしの姿が、あのときの"先輩"と重なってくる。




「……ま、しょ、た」

――"しょ、た……くん、"





――――ドンッ!





「あ、ご、ごめ……」

「…、……」


耐えきれず、あたしは翔太を突き飛ばした。




だって、苦しかった。

翔太とのキスなんて夢みたいで、嬉しい筈なのに。


苦しくて、辛くて、仕方なかった。




だから―――

彼の反応を窺うことすら出来ないあたしは、カタカタと震えて両手を握りしめていた。





「いや、俺が悪い。……ごめん」


不意に重なった手のひらの温もりにハッとして顔を上げれば、唇の端から血を流す翔太が居て。




あたしが、やったのか。

咄嗟に、自分のことしか考えず、噛んだ。…なんて馬鹿なんだろう。



それを証明するように視界に映る痛々しい傷あと。

そっと指先をそこに添えれば、ビクッと肩を揺らした彼は驚きに目を見張っていた。