あの頃のあたしは、恋なんて知らない子どもだった。





『翔太!帰ろ――…ってあれ、いない?』

『よー、好美。翔太なら多分、委員会か何かだと思うぞ』



愛想よく答えてくれた男の子にお礼を述べ、くるりと身体を反転させて廊下を進む。

勿論、向かった先は翔太が居るであろう教室で。





この先にある光景がどんなものか、なんて全く考えずに。

鼻歌混じりに歩を進めていたあたしは未熟で、愚かで、滑稽だった。




ドンッ。


『あ、すみませ……』

『わっ、こちらこそごめん』




見上げた先にあったのは、翔太よりも少しだけ大人びた顔立ちの男子生徒。

その雰囲気からも察することは出来るけど、一応上履きの色を確認すれば上級生だった。




恐らく翔太の委員会の先輩だろうと踏んで、『いま終わりですか?』と声を掛けてみることに。





『うん、ちょうど終わったとこ』


案の定そんな言葉を貰って、思わず頬が緩む。

軽く頭を下げてその場をあとにしようと足を踏みだした、そのとき。