腕を下ろし視線を持ち上げたあたしは、電話口向こうに居るであろう男に向かって言葉を後続させる。



「なんかやらかした?」

"ブー"

「じゃあサマータイム導入とか」

"それ来月から"

「………ふぅん」






段々としおれていく翔太の声音が言わずとも答えを示していて。

聞く前から歩を進めていた足を方向転換させたあたしは気付いているのに鎌を掛けた。


クスリ、空気に紛れこんだ笑みがそれの明確な裏付けだ。





「なんか欲しいのある?」

"……好美がほしい"

「真面目に答えなさいよバカ」

"だから馬鹿じゃねーって"

「覇気がないわね」

"しょうがねぇだろ"







そこまで交わしていた会話は嘘のように途切れてしまう。

しかしながら、あたしの口許から笑みが取り払われることは無くて。



"風邪ひいちまったんだからよー……、"







「なるほどね。馬鹿だったら風邪は引かないか」

"おま……、帰ったら覚悟しとけよ"

「そんな体力無いくせに」

"いま温存してんだよ"

「電話だって結構エネルギー消費するじゃない」

"好美との電話は別ですー"

「(………やっぱりバカ)」