――――それはある連休前の平日のこと




「(うわ、)」


帰宅途中だったあたしは、軽く欠伸をこぼしながらすっかり歩き慣れた道のりを進んでいた。

そんななか鼓膜を揺らしたのは例に洩れずあの着信音。最大音量の黒電話である。





「(ご、ごめんなさい……)」


思わず行き違ったサラリーマンらしき男性に内心で謝罪を述べる。

冗談抜きにコレ、そろそろ変えないと。






「………もしもし」

"このみ?"

「……、翔太?」






自ずとぶっきら棒になった声音を自覚する間もなく、耳朶に滑り込んできた声音に目をしばたかせる。

なんか………いつもと違う気がしたから。







「どうしたの?」







だからそう返した。しかしながらこの段階ではどうしてそんな……言ってみれば元気が無いのかが分からなかったため、特段心配を声色に絡ませることも無かったけれど。


でも、翔太から見ればそのコトバ自体を向けられたことが嬉しかったらしく。







"……やべー…、早く帰ってきて"

「なに、もう家なの?」







思わず目を丸くして腕時計へと視線をおとす。嗚呼、そういえばコレも翔太から貰ったんだっけ。

やはり予測通り。針はこの男の帰宅にしては早すぎる時刻を指していた。