――――それは、ある何の変哲もない平日のこと





「ただいまー……って、あ。今日はあたしが先か」


挨拶の其れを口にしたのは良いものの、聞いてくれる相手が不在であることを悟ったあたしは小さく言葉を後続させる。

それは独白のようで違うもの。まあ、所謂羞恥を逃がすために零した台詞で。




年がら年中ヒールに包まれている脚は最上級の悲鳴を上げていた。

身体の芯から襲ってくる誘惑に負けたようにパンプスを脱ぎ捨て、よたよたとリビングまで―――行こうとしたけれど、やめた。



「…………」






あたしの視界に映り込んだもの。見覚えのある名前の記された、陳腐という言葉がピッタリなハガキ。

マンションのポストに乱雑とも取れる具合で引っ掛かっていた其れを引っこ抜き、再度目を凝らして内容を読み取る。





――――けれど、その行動自体が間違いだったらしく



「いッ、たー……」

「うわ好美!? あー…、マジで悪い。立てるか?」

「うん。ごめん、あたしも悪かった」






いきなり背後から開けられた扉が腰あたりに直撃し、痺れるほどの激痛が襲ってくる。

見上げると、心配そうに此方を覗き込み手を差し出す翔太の姿が。