大人同士が挨拶で盛り上がっている間、翔ちゃんが沙羅と姉妹を取り持って紹介してくれました。

クラスメイトの西森加奈さんと、3歳年上のお姉さんの陽菜(ヒナ)さんは、とても美少女です。

沙羅は柄にもなくド緊張して、とりあえずご挨拶しました。
「内田沙羅、5歳、北條路学園幼稚舎の年長組です。キャンプは、初めてです。仲良くしてください。よろしくお願いします。」

「ぶっ…ぶははは!沙羅、なに緊張してんの?もっと気楽に普段通りにして大丈夫だよ」
もぅ……翔ちゃんったら、そんなに笑わなくたっていいじゃん。

「へぇー。幼稚園児って、そんなにかしこまってご挨拶出来るんだァ…さすが、お金持ち学園!
ま、もっと…なに?ほら、『ごきげんよう』とか?そう言う風に言うのかと思ったけど、違うんだね。
言葉遣いがなんとなくお利口さんって感じぃ」
加奈さんが、頭ナデナデしながらさっそくディスってくれました。

《なんかマセガキって感じ…お互いに名前呼びっぽいのが気に入らなーい。『生まれた時からの付き合い』って最強のライバルな予感だわぁ》
触ってくれてありがとう、ですね。やっぱりさっそくライバル視されてますねー怖いですねー。

「加奈、会ったばっかりでよく分からないのに決め付けてそう言う言い方しないの!」
お姉さんに叱られてしまいましたね。陽菜さん、さすがです。

「西森、沙羅は北條路学園に通ってるけど別にお嬢様って訳じゃないんだよ。
あそこは個性的な子ほど大きく伸びる教育方針なんだってさ。百合さんが言ってたよ。」

ありがとー翔ちゃん!よく解ってくれてます。
さっき加奈さんに何か嫌なことを言われたような気がするけど、全部吹き飛んじゃいましたね。
お姉さんの陽菜さんは、多分優しいのでしょう?
そのお姉さんに怒られて黙っちゃったってことは、言い過ぎて反省中ってこと?加奈さんもそんなに悪い人じゃないよね。

いつもの『ポジティブ沙羅ちゃん』でいられるのは翔ちゃんのおかげです。

「百合さんって沙羅ちゃんのおばあちゃんでしょ?お母さんの事はママって呼ぶのに、おばあちゃんの事は名前で呼ぶの、どうして?」

加奈さんに聞かれて、そう言えばそうだなぁって思って答えます。
「そーなの。でもね、ママはずっと百合さんって呼んでるから沙羅も一緒に百合さんって…。そう言えば百合さんの事を、おばあちゃんって呼ぶ人居ないかも」

「へー、じゃさ、私が呼んでみようか。怒るかなぁ」

加奈さんって結構イタズラっ子的な人ですか?
「うーん、百合さんは怒るというよりねぇ…」
沙羅が言い淀んでいると翔ちゃんが助け舟を出してくれました。

「百合さんはね、子供の心もよく解るから、怒るよりそう言うイタズラを楽しんじゃうほうかも」

うん、かもかも!

「ほんとかなぁ…おばさんとかおばあさん達ってみんなさ、アンチエイジング~とか言って必死じゃない?年寄り扱いされたら絶対怒っちゃうと思うんだけどな」

「ちょっと!加奈はまたそうやって…分かってて人の嫌がること言っちゃダメだってば。また怒られたいの?」

「西森お前、そんなに性格悪いと嫌われるぞ?モテないぞ?いや、俺の知ったこっちゃないけど」

陽菜さんと翔ちゃんが呆れてますが、沙羅はそういう『人の嫌がることをする子』の多くが『寂しがり屋のかまってチャン』だと知っています。
本人だけが『それは逆効果だ』と言うことに気付けないか、気付いていてもどうすればいいのか解らないのです。

加奈さんもそうなのでしょうか。

沙羅は今まで、そんな心を視てもどうすることも出来ませんでしたが、
今回のキャンプで、初代魔女、百合さん直伝の切り返しを間近で見聞きさせてもらうことになったのでした。
人はそれを「大人の対応」と言うみたいです。