「 ダメっ!! それはダメっ。」

私は、思わず 作業の手を止めて シンを見上げる。

「(笑) 嘘だよ。 痛いの嫌だし。」

「私、好きだもん。 可愛いっ(笑) 」

「 なんだっ……それ。(笑) 」

シンは 振り返って 少し照れながら ニッと笑った。

「 もう~(笑) そんなことより ジャケット…どのあたりまで 持って行くぅ?
薄手の物は 一応…持って行った方が いいのかなぁ。」

私が クローゼットの前で ハンガーにかかったジャケットを あれこれ引っ張り出して 迷っていると シンはそれを 手にとって 元の場所に戻した。

「 持っていかない。」

「 でも…。突然、寒い日もあったりするよ。」

「 取りに帰るよ。」

私は、クローゼットを真っ直ぐ 見つめるシンに
ドキッとする。

「 …………うん。」

さっきまで どうでもいい話でケラッとしていたシンの表情が なんだか……

トクン……。

「 シン……?」

「 ここに 置いておくよ。
寒かったら、すぐに取りに戻るから……。」

東京は ……遠い。

「 うん。 分かった。」

東京は ……すぐ 近所なのかも。

な、わけない。

突然、ひどく寂しくなった。

一日中 シンと一緒に、引っ越しの荷造りをしていると 何だか色々な事を忘れて ワクワクしてた。

手が届くかもしれない夢への期待と、
すぐ傍にある 大好きな人の 笑顔。

なのに……

今、たった今……突然、我に返った現実。

もうすぐ、東京へ行ってしまうashを想うと…寂しさで 死にそうになる。

シンの “ 帰りたい場所になりたい ”。

けれど、シンの才能は そんなことを許してくれるだろうか……。

その歌声は きっと……私達を引き裂いてしまう。

変わっていくであろう彼に……このジャケットは必要だろうか……?

「 紗奈……?」

「 あっ……うん、ごめん 。ボーとしてた(笑) 」

「 ………………。」

「 は……ははっ。ごめん、全然平気。」

「 紗奈……。俺、こんなにも寂しいと思わなかった。」

「 …………。」

トクン……。

また……同じ事を 思ってた。