No border ~雨も月も…君との距離も~

ashは 各地でライブをするたびに ライブハウスのキャパを越える動員数を 記録した。

少しずつではあるが、知名度が上がる手応えをメンバー全員が 感じていた。

東京では メジャーのレコード会社や事務所が数社、ashを見にやってきて 夏香さんは 対応に追われたらしい。



私と鈴ちゃんにとって、待っている1ヶ月半が終わった。



「 紗奈っ。ashの機材車、帰ってきたよ。」

鈴ちゃんがタクちゃんの 大量の荷物を半分 肩から下げて、嬉しそうに 彼の腕を引っ張ってきた。

「 ただいまぁ。 ありがとうございまーす! 」

私は 受け付けの仕事をしながら、ベースを担いだタクちゃんに 「 おかえりーっ! 」と鈴ちゃん同様 、テンション高めに迎えた。

アレ。 気のせいか……♡
また、タクちゃん あか抜けた気がする。

「 ほらっ! ボヤッとしてないでっ(笑)
シン、迎えておいでよっ。」

鈴ちゃんは 私の耳元で囁くと 受け付けを代わってくれた。

私が 少し浅めの深呼吸をして 駐車場へ向かうと ドアが開いたり閉まったりする 黒ボディーのハイエースから 大音量でashの曲が流れていた。

スピーカーを震動させる 重低音が 私の胸の高鳴りを一層 激しくする。

浅い深呼吸じゃ…無理かも。

「 おつ! 紗奈ちゃん。ただいまっ。 」

「 おかえりー!翔平君、タケル君。」

軽く手を挙げる 2人にホッとして、続いてスタッフの男の子が 会釈しながら車から 降りてきた。

翔平君は 私を呼び止めて

「 BIG4にお土産あるよ。助手席の紙袋にあるから、持ってきて。」と笑った。

「 ホントーー!(笑) ありがとう!! 」

「 あっ!! シン。 あいつまだ寝てるし……(笑)
起こしてっ。」

「 え”っ…。 」

でた。 ……らしい というか。

また、2日くらい寝ないで 行動してて 爆睡……かぁ?

でも……

シンに 会える。

やっと 会える。

「 シン、着いたよ。 起きてっ…………。」

後部座席のスライドドアを開けて 声を掛ける。

一瞬…………。

喉の奧に 何か固いものが詰まって……それに連動して瞼が 全開する 感じ。

何?!!

悔しいけど 、美しい絵画の構図か……ラブストーリーのワンシーン……か?

それとも……あのCMの 続編かと 思った。

奥の窓に 寄りかかって眠るシンの胸に …夏香さんが顔を埋めるようにして眠っていた。