No border ~雨も月も…君との距離も~

「 どうした? 」

「 えっ?………? 」

「 い…や?どうかしたかな…って。」

「 何にもないよ。(笑) 」

「 い…や?ひどく…力、入ってっから……腕。」

「あーーーーーー! ごめんっ!! 」

私は急に 恥ずかしくなって、シンの腕から手を離して 両手を引っ込める。


悟り……ってなんだろう。

違う。

走り出したばかりの人生に、サトリなんて無い。

シンの笑顔は 悟りではなくて……生きている証。

シンは、自分を置いて 突然亡くなった母親に、

“ 俺は 平気だっ!! ”

と言わんばかりに 笑う。

生きている証。

ホントは、理由なんて無くて……ホントのところ分からない……けれど、

私は シンのケラケラ笑う声が、好きだ。


両手を引っ込めた私に、シンは振り返りながら
「 はいっ。(笑) 」と左手を差し出した。

クラブの外に出ると、さっきよりも少し雪が積もっていて シンの息も 私の息も、白い日溜まりのように……お互いを取り巻いていた。

不思議。

寒くないのは、やっぱりシンがいるから。

冬でよかった。

冬を理由に、自然と温もりを欲しがっても 許される。

私は シンの 手のひらに、そっと触れる。

シンは グッと私の手首ごと拐って、自分のジャケットのポケットに仕舞った。

「 (笑) 」

「 (笑) 」

冬でよかった。

シンが 傍にいてくれる。

「 カオリと何 話した? 」

「 う~ん。 別に……。(笑) 」

「 あ“っ!!わかったっ。俺の悪口!!」

「 (笑)!何? 見に覚えあるの?」

「 ………………。時効……無いの? 」

「 あっ!自白したっ!(笑) 」

「 (苦笑) カオリのやつーー。なんだよぉ~。
自分だけ幸せになろーーとしてんだろぉ!! 」

「 (笑笑笑) 」

新しい白い道に 2人の足跡が並んで続く。

キュッと鳴る雪の足音と笑い声。

もしも……このまま……この夜に

シンと2人……

帰りたくない。

私は、シンのジャケットの中 ……繋いだ手に力を 込めた。