開けっぱなしのクローゼットに近づき…私は そこにジャケットが 1枚も残されていないことを確認する。

おかしい…よね。 私。

シンが ここに来て 持ち帰ったわけじゃないかもしれない……。

業者に 処分されてても いいわけで。

…………おかしいよね。

まだ、シンのジャケットのことまで……気にして。

私は、ふっとクローゼットの隅に置かれた ショップ袋に目が止まる。

パステルカラーの その袋を手に取る。

少し…くしゃっとよれているけれど……

“ merry X'mas ” のメッセージシールが貼ってある。



………!!………あっ………


「 ……………………あっ…あぁ… 」


ショップ袋から、ツルンと中身が…私の手に触れる。

小さな 真っ白な帽子。

まるで…あの日の粉雪のような…pure white。

ふわっと…柔らかい感覚が 手の中から 私を包む。


「 …………あぁ。 ……シン……シンだよね。」


私は、小さな帽子を胸に押し当てて…膝から崩れる。

崩れ……泣く。


シン…………ごめん。

ごめん……シン。


忙しい中で ジャケットを取りに来たのも、この帽子を置いて立ち去ったのも……シンだ。

あの日…彼と別れたあの日のプレゼントに、私は ただただ……泣き崩れた。

許して……

私は、シンから…父親になる権利を奪った。

許して。

この傷は、一生…私が抱いて生きる。

この傷を、抱いて生きる。

だから、どうか…

どうか、あなたの夢が叶いますように。

それだけを祈りたい。


胸元のチョーカーは…まだ外せなくて

そのトップと……小さな帽子を握りしめる。


逢いたいよ……シン。
ただ……ただ……逢いたいよ。

もう……恋なんて、できない。
きっと、君 以上に誰かを思うことなんてできない。

ただ……ただ…… 君だけが 好きでした。

好きでした。 君だけが。




ほどなくして DNAカクテルのデビュー曲、

“ No border ” は、発売初週で75万枚の売り上げを記録し……

CDの売れない時代を 沸かせた。

スポットライトを操る 彼は……もう 私の手の届く ところで笑う彼ではない。

その時の、Dーカクの シンに迷いは 微塵も感じられず、 ただ ただ……トップスターへの道を歩き出していた。