シンは スマホ越しの鈴ちゃんの言葉が、言い終わる前に……粉雪を 追い越すように 走り出していた。



こんなに、誰かを 想って走ったことはない。

こんなに、その手を放したくないと……

こんなに、守りたいと思ったことはない。


強く……思う。


自分が想う以上に……想っているよりずっと、

君のことが 好きだ。

紗奈のことが……好きだと思う。


いつしか 追い越した雪の果て……

白い雪は 柔らかい雨に変わり、シンのグレーのパーカーは……黒との境目を探していた。

この 雪と雨のborderに シンの呟きは かき消される。


“ 愛してるよ……紗奈。 愛してる。”


ふと、シンの視線の先に クリスマスの装飾に 煌めく一軒の店が 目に入った。

ショーウィンドーには 青い目の赤ちゃんのマネキン。

パステルカラーのベビードレスを 身に付けた 何人もの ベイビー達は 無表情で シンより少し高い位置を見つめたまま 両手を広げている。

よく見ると……愛らしい唇と 実物大の手のひらのピュアさに、思わずドキッとする。

シンは スマホで時間を確認すると、迷っている暇は無いことを知って その店の扉を勢いよく 押した。

雨に濡れそぼったパーカーを気にして店に入るほどの余裕もない。

とりあえず……フードだけは 外して、目の前のマネキンの 帽子を手にとった。

さっきまで……降っていた粉雪の色。

フワフワしたコットンの帽子が、あまりにも小さくて……

一瞬、戸惑う。


「 プレゼント……お探しですか?」

顔を上げたこの場にあまり似つかわしくない …シンのあどけない少年のような表情に、店員の女性は遠慮がちに声をかける。

「 はい……子供が 産まれるんで……。」

照れながら うつむく、シンのはにかんだ笑顔に 店員の女性は 同じく 優しく微笑んだ。