No border ~雨も月も…君との距離も~

「 ここがいい……。」

「 んっ……? 」

「 私、ここからの スカイツリーが好きだよ。」

「 ……紗奈?…… 」

縁石から 降りて、シンは静かに 私に寄り添う。

私は 思わずシンの右手に 手を伸ばす。

温かいシンの 手のひらは…ぎゅっと私のかじかむ手を握り返す。

自然に溶け合う温もりに……

粉雪が ふわりと 花開く。


私の前髪に、2…3…と降り落ちる それを、シンは優しく 撫でるように 払い落とす。

見つめるその瞳に 私はうつむく……。

決心した気持ちが 揺らぐから。

「 すごく……眩しい存在は このくらい離れている方が、私には 合ってる。

東京の夜空に映える スカイツリーも……レインボーブリッジも……それから シンも……。

私には 大きすぎる。」

「 紗奈…………。 どうした……?」

「 Dーカク……カッコよかったよ。

すごく 眩しくて 大きくて……。

私の手が届かないくらい 5人とも、本物だった。」

「 ……紗奈、俺は 変わろうと思う。

これから先も、もっと…変わっていきたいと思ってる。

けれど……

紗奈への気持ちは 変わらない。

これから先も……ずっと変わらない。

そう 言ったはずだよ。」

「 ここから見る スカイツリーのように……私は遠くから シンを見ている方が……

幸せなんだ……。」

私は シンの手を そっと放す。

温もりが……ふっ…と 途切れる。



この 都会の光たちの輝きに、いくつもの夢がある。

いくつもの 愛がある。

嘘がある。

優しい嘘は……いくつあるのだろう。



「 シン………… 私たち、別の道を行こう。」


粉雪は、私とシンの間に 黙り込む。


こんなに 人を好きになったことはない。

こんなに 誰かを想ったことはない。

こんなに……守りたいと思ったことはない。

愛してる……愛してるよ。 シン……

この都会の 光を見つめて、私は 優しい嘘をつく。


「 シン…………私たち、別れよう……。」