警備の 太ったおじさんが 警棒を横にして 私の行く手を塞ぐ。

「 ごめんなさいっ! 通して……コレっ!! 」

staffのネームホルダーを コートの胸元から引き出して……突き出す。

首を傾げて ジロリと私を見る 警備員の後ろで、片耳を 押さえて 電話をする 洋介さんと目が合う。

やっぱり……胸騒ぎ……

様子が 慌ただしい。

彼は 電話をしたまま 手招くジェスチャーをして バックヤードを指差す。

「 紗奈ちゃんだよね…… シンの 彼女の。」

「 ……はいっ!!」

「 今、ちょっと……事故があって。」

えっ…………?!!

私は 忙しそうに 電話口を押さえて話す洋介さんに 会釈すると、まだ モヤッと私を見つめる警備員を振り切って 楽屋のテントを目指した。

何っ?!! 何?

事故って……何?

シン…………。 シン…どこ?!!

スタッフが 慌ただしく動き回る中、私はすり抜けて走る……

シン…… どこにいるの?!!

私の脳裏に メット越しのタクちゃんと…泣き叫ぶ鈴ちゃんの声が響鳴する。

「 DNAーカクテルの…… 」

すれ違い様の スタッフ同士の声に 思わず 足を止める。

「 あのっ……! 何かあったんですか?」

私の 凄まじい勢いに…若いスタッフは少し のけぞりぎみで 答える。

「 あ…ぁぁ… 突風でステージサイドのパネルが1枚外れて…倒れたんだよ。

Dーカクの誰が……下敷きになったって……」

「 …嘘。 ………………。」

「 あのパネル……相当 重いはずだから、今 救急車 呼んで…… 」

私の耳は 彼の話を途中から聞いていない。

聞こえなくなっていた……。

シンっ!! 嫌だっ……

お願いっ。

無事でいて……。