とても……美しい音。 美しい声。

この 高音はシンにしか出せない。

深く 高く……透明に攻めてくる 音の雷鳴。



パパの……声が 聞こえる? パパの 声だよ。

私は、お腹に両手を当てる。



1年前……BIG4の ライティングルーム。

カオリちゃんに 掛けた 自分の言葉が甦る。

“ クリスマス ライブだよっ。楽しまなきゃ! ”

自分で そう言ったクセに、

しっかり……立たなきゃ。


人の波は シンの動きと 同じリズムを刻み…シンの走る方向へと 視線が移動する。

心を……拐う。

コール&レスポンス、 人々を一体化させる シンの高音は ライブを最高潮へと 盛り上げた。

ashの完璧だったバランスに 人間臭さが……泥臭さが 混ざる。

カッコ悪さも 汚ない感情も……情けない心の弱さすら

シンは見事に音に変えて表現した。


ある時は、救世主。

ある時は…細い蜘蛛の糸に 群がる 亡者のように…。


Dーカクのシンは、まるで 彼自身がアートの一つであるかの様に、歌詞や曲を越える表現力で 人々を掴んだ。

ashの曲で 知らぬ間に泣いていた私に、Dーカクは
“ 泣いて……いいよ。” と許しをくれた。

苦しみに負けて 泣いてもいいよ…と、それでもいいと受け止めてくれる そんな気持ちにさせる世界観。

絶望という表現から 逃げないシンは、

今までより…ずっと 強くなっていた。

今までより…ずっと 本物になっていた。


大きくなるシンを、私は受け止めなくてはいけない。

そして…日々、成長する 小さな命を受け止める。

大人に…ならなきゃ。


スモークと火花が吹き出すステージから、手を振って舞台袖に 引き上げるDーカクを 追うようにして 私は
人々を掻き分けて 小走りに駆け出した。

何だろう……。

何か分からないけれど 、胸騒ぎ。

スモークで霞む中、シンが ニッと笑って軽い投げKissで ステージを去った瞬間……

私は、突風に顔を歪める。

♡キャーーーーーっ!!♡ の悲鳴で その大きな音と地響きは 半分 かき消されて……

たった今、一つになってしまったばかりの お客さんは興奮のあまり……気づいていない。

ものすごい 勢いで人々の上を走り去る一瞬の突風。

私は 人混みに逆らって、楽屋のテントの方へと向かう。

シンがステージから消えた瞬間……

興奮の覚めない身体に 不安がよぎる。



シン…………っ!!

シンっ!!


私は、ステージを目で追いながら 走る。

1年前と同じ……不安から 泣きそうになる。
不安になるよ…何もかも…