「 お前の歌を待ってる人が もし…一人でもいるなら、歌うべきだよ。
どんな形でも……。」

「 …フッ…(苦笑)

こんな…自分、誰も…求めてないっしょ。

中途半端で…歌うのだけは…できませんよ。」

「 カッコ悪くて いいんじゃね。

そのままの、お前で。」

「 そのままって……(苦笑) カッコ悪くて、ど~もっ」

「 本物のファンって、カッコ悪くてダサイけど……苦しんでいるお前と一緒に立ち上がろうとすることに、“意味 ” みたいなものを感じるんじゃないかな。

そんなお前の歌を最高だと思うんじゃないかな。」


本物の……ファン。


「 カッコ悪くても 歌うべきだよ。

ついてくる奴だけ、ついてくればいい。」

「 …………。」

長瀬は 両手をつなぎのポケットに突っ込んで ぶっきらぼうに アスファルトの破片を蹴る。

そして ゆっくりと 空に向かって首を上げた。

「 お前、自分で雑誌のインタビューに答えてたクセに。

いつまでも 未完成な自分でいたい。

見たことのない 自分をずっと探したいって……

地図の無い道を進める自分に……なりたいって。」

「 ……そうやって…聞くと、やけにカッコ良く 聞こえますね。」

シンは苦笑する。

「 ashを越えろよっ……! 」

「 …………。 てか、長瀬さん 俺より…俺のこと 詳しいッスね。」

「 お前の だっさい所、 俺…嫌いじゃねぇよ。

キラッキラの王子様より、血だらけの ナイトの方が続きが気になる。

そんなもんじゃねぇの。

歌えよ。 カッコ悪いままで。 」

「 カッコ悪い…ままって……(笑) 」

「 高い所 ビビるし… 水切り雑だし。

手の袖っ! 伸ばしたまんまだし(笑) やる気あんのかってっ!! 」

「 てか……すみません。

どさくさで、めちゃくちゃディスってません?(苦笑) 」

「 むいてねぇって事だよっ!! この仕事。

キラキラの王子様が、こんなことしてんじゃねぇよっ! 」

「 王子じゃ……ありませんって。」

「 なら、血まみれで歌えっ!! 」

「 …………。」

「 泥臭く歌えよ。 きっと、もっと男たちが ついてくる。」

シンは、さっき巻き直した頭のタオルを外すと…クシャッと前髪をほぐした。

「 て、いうか…俺はお前になんか これっぽっちも興味なんてねぇけど。」

「 ……ありがとう…ございます。」

「 …(笑) 失くした物に、こだわるなよ。

お前自身が、世界一になることに こだわれっ。」


俺が……。

俺自身に…… こだわる……。


長瀬は テキトーに伸びをしながら アクビ混じりに笑った。

「 ……って、言いながら 夢っていつか、叶うのかなって…。

自信もないし、毎日 その日その日で ぶれぶれだったりするんだよね。(苦笑) 」

こんなにも…都会の片隅で、こんなにも汚れたビルの裏側で…

夢に迷って、夢にもがいているのは 自分だけじゃないと 支えられた気がした。

シンは、長瀬の後ろ姿に 小さく頭を下げた。