「 どこ行くの……。」

「 頭、冷やして来る。」

「 私、待ってる。
いつか…シンが私を見てくれることを…待ってる。」

シンは 夏香を残して 扉を閉じると 長い息を吐き出した。

胸元のチョーカーにそっと手をやる。

トップが正しい位置にくるように 整える…。

そして…その場に、ズルズルとしゃがみ込む。

くしゃっとする髪の隙間から、エントランスに差し込む 赤い月の光。

月の光……

遠くのどこかで 鳴り響く サイレン…

不協和音……に聞こえるのは、心の叫び。

「 頭…冷やして来るって…。誰かさんのセリフじゃん…。」

最後の…会話。

タク………

シンの目から、一筋…涙が尾を引いた。

怖くて………動けない。

こっから、動けない………。

怖いよ。 何もかも………。

信じられないくらい、怖い。

………紗奈………