No border ~雨も月も…君との距離も~

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夏香は シンの身体を支えながら、やっとのことで アパートの階段を上がり…彼のデニムの後ろポケットから鍵を 引っ張り出して…重たい荷物と化しているシンを 玄関に押し込むことに 成功した。

「 ちょっ…とっ! シン。
しっかり…立って、もう少しだから。」

入口に座り込む シンの手首を 引っ張る。

「 もう……! そんな所に 座らないでって! 」

ガタッンーーーー バンっ!!

立て掛けてあった傘が 倒れてみたり…足元のスニーカー達が わちゃわちゃと そっぽを向いたり…。

とにかく、男女二人で この玄関はキャパ越えのようだ。

二人は 縺れ合いながら…その場に転げた。

夏香は 無防備すぎる 大きな子供の横顔を、間近で見つめる…。

ふて腐れているのか…

いじけているのか…

スネてる。

いくら 愛しても伝わらない…愛情不足のやけっぱちさんに、ため息を付きながらも 夏香は 渾身の力を振り絞って 立ち上がった。

「 酒…臭ーーーーっ。飲みすぎだよぉ(苦笑) 」

「 ははっ。血が…さぁ~ アルコールになっ…てる。 は…はっ(笑) 」

「 笑ってる場合じゃないわよぉ。
えっ…と、電気、電気。 それから…水は…と。」

夏香は まるで自分も酔っぱらいかのように、壁に両手をついて部屋の電気を探す。

手に触った スイッチは 玄関のオレンジ色の小さなダウンライトだったようだ。

目の前には 料理なんて ほぼする予定で設計されていない 単身用の流し台に、IH はひとつ。

そんなキッチンに、やたらと調理器具が揃っている。

夏香は、思わず 息を飲む。

そんな所に嫉妬。

固まる…視線。余計な想像に…逸らす視線。

平静を装って…コップに水を汲む。

台所に立つ、あの子をシンは…きっと見てる。

きっと……その姿を見ていて…

コップの水が 溢れそうになった時、後ろから抱き締められて…はっとする。

腰に絡まる…シンの腕。

「 ………………シン?」

そっと振り返ると同時に、触れあった唇に驚くよりも……受け入れる……

溢れた水が手首を濡らして コップはドクドクと飽和状態になる。

「 シン………。水…だよ。」

夏香は、そう言っておきながら…そのまま後ろ手に、コップをIHの上に置くと シンの唇だけを受け入れた。

濡れた手首で…シンの頭を、髪を、抱き寄せる。

愛してる…。

あの子より…紗奈ちゃんより、ずっと…

私の方が シンを愛してる。

ずっと、ずっと。