No border ~雨も月も…君との距離も~

「 な~んか こう見るとまだ、あどけないわよね♡

若干…二十歳だもんね~。」

「 いい感じに まだ反抗期だな、コイツ。

自分の想いとは別に 身体が反抗してるんだよ。

タクじゃなきゃ…嫌じゃって(苦笑)

駄々こねて…

声が出ない。」

心の通り雨は……

いつしか 本降りになっている。

どうにもならない 心の叫びを 叫べば叫ぶほど……声にならない。

不協和音だけが 身体中に響く。

「 コイツの歌を初めて聞いた時……悔しいけど突き落とされた。 音に…恋したって言うのかな。
(笑)
音楽的な技術は まだまだ成長段階に過ぎないし、
専門的な部分も 全く 独学にすぎないけれど……

持って生まれた声の質や表現に 心を操られる。

一瞬にして…シンの世界に、突き落とされる。」

「 洋さんが人を褒めるのを、初めて聞いたぁー!」

「 俺を鬼みたいに言うなっ!! (笑) 」

「 この子…どうも、鬼を骨抜きにしちゃうみたいね~♡ 」

「 まぁ~。この反抗みたいな こだわりと…いい意味でのヤンチャさと 心のバランスをどうコントロール するのか… ただのゴミになるか…
コイツ、次第だな。」

…と、その時。

「 シンっ!! 大丈夫っ!!」

「 …あっ! もう一人の鬼 !…鬼、多いなぁ… 」

夏香は店に入って来るとすぐに…シンの肩に飛びついた。

「 シンっ!起きて。」

「 全然…大丈夫じゃないわよ。お.て.あ.げ。
早めに、持って帰ってよっ。」

「 シン…ねぇ…。」

「 店の前に…開店前から座り込んでたんだから。
コンビニのビールと酎ハイで、すでにできあがってたの……ったく。
昼間から、飲んでんじゃないの…。」

「 シン…ねぇ。 帰ろう…起きてっ。」

夏香は少し強めにシンの肩を揺らす。

「 …う…るっせ。 ほっとけよ…。」

シンは夏香の手を払うと またカウンターに頭をつける。

「 ほっとけないよ。帰ろ…シン、送るから。」

「 飲みたい時もあるんじゃねーの。ほっといてくれって言うなら、ほっとけばっ。」

洋介は 他人事全開の表情で ビールを追加する。

「 洋介さん、私、守りますから。
シンは、大事な商品なの。汚すわけにはいかないですよね。」

「 ……くくっ(笑) 夏香ちゃんには 敵いませんなぁ~。」

「 私…必ず シンの声が戻るようにしますから……だから、もう少し 契約の解除は待って欲しいんです。」

「 (笑)あ~。面白い、ashは 夏香ちゃんも入れて、BIG5 だったんだな。
……面白いよ。
契約のことは、俺がどうこうできるもんでもねぇけど、事務所っていうより……俺は 個人的にashっていうバンドの続きが見てみたいよ。」

「 洋介さん…ホントに、ありがとうございます……。」

「 山ほどいるからなぁ~。才能のあるやつなんか。……けど、こんなに気になるヤツは、あんまりいないのかな~。(苦笑)
このまま埋もれるのも…這い上がるのも…興味だけはある。」

腕を組みながら 背もたれに身体を委ねて 洋介は 煙草の煙とシンの横顔を交互に 見つめた。

「 それとも、田舎が同じってだけかな(笑)
“ 悲劇の伝説バンド ”
話題性は、あれば あるほど 売れる!!」