東京での モヤッとが残っているせいか、そういう事となると シンの声は小さくなる。

「 表の女の子たち…お前に会いたくて 入口に座ってるんじゃん。
もう… ロックだからとか自分勝手に言ってられないんじゃねぇのかな。」

「 ……わかってるよ…。」

翔平の言いたい事も よくわかっていた。

“ ロックだから…自由っ! ” みたいな ワイルド系ハードロックバンドとashは違う。

やっぱり…アイドル要素が強い。

100年に1度の逸材……とまで、インディーズ雑誌に書かれた シンの整った容姿と透き通る歌声は、やっぱり女性ファンを引き付けた。

普段はハードでシャウトばかりの曲が苦手な女子も シンのバラードで 気がつくと コッチの世界に居てしまう。

翔平のイラ立ちが自分と紗奈にあることを 少し感じて…今日は 反論することを避けたかった。

「 じゃぁ…翔平君は 俺たち、アイドルだって言いたいんスか?」

タクが珍しく翔平に想いをぶつける。

「 まぁ…。その境目がどこかなんて知らねぇけど、たぶんソレに近いんじゃねぇの?
特にシンは…そうなんじゃねぇの。
ボーカルってそういうことだよ。引き付けないと始まらない。」

「 アイドルだって言うんですか?」

「 タクーーっ。 俺が悪かったよ。 始めよう!」

シンは、 あ、あ、と軽くマイクをテストしながら空気を変えようとするが、タクはなぜかいつもと違って…耳を貸さない。

「 もちろん前向きにって事だよ。
アイドルレベルでシンのファンは、熱烈だし…気を使えって事だよ。
タク…お前だって、シンのこと言っていられねぇだろう?!」

「 …………。」

「 俺はashを どデカイバンドにしたいんだよ。今よりも ずっと沢山の人に曲を聞いて欲しいし…伝えたい。
俺は…俺の全てを捧げて、このバンドに賭けたいんだよ。」

「 …………翔平…。」

シンは、翔平を見つめる。

「 俺は…このバンドを日本一にしたい。
世界にだって 通用する日本一のバンドにしたいんだよ…。」

「 日本一…って。
…全てを捨てて…って。

ぼく、昨日…色々なこと考えたんスよ。

親の会社の事とか…
彼女の事とか…

世界って…僕。わかんないっスよ。

怖いっスよ。」

「 タク。 心配すんな。やっぱり、俺が悪かったよ。お前まで不安にさせて…。(笑) 」

うつむくタクの肩を シンは軽く叩く。

「 違うんです。」

「 タクーーーーっ。久しぶりのAスタじゃん。」

「違うんですよ。僕は…皆と違う。」

「 何やぁ。昨日?なんかあったんか?」

タケルがタクを気にかけて ドラムセットから立ち上がる。