午後 6時。

陽が長くなった 夕方は、心地よい 夏の風が通りすぎる。

金沢駅前の もてなしドーム。

荘厳な佇まいの 鼓門の真下。

足早に過ぎる人々を 見送る 鼓門は、夜風さえも力強く……仁王立ちのまま 受け止める。

ここは 風の通り道。

人々を、迎え見送る……力強い 通り道。

藍色に滲む 夕陽の一滴……。

月の周りだけ、ボーと明るく白んでいく…そんな空の角度を ドーム形の 屋根の隙間から見つめる。

私の手を握る シンは、自分の背中で月明かりを 遮って 美しい月白を 背負込んでいた。

より、一層……幻想的な月とシン。

アーチの鉄骨から 零れてくる月明かりに、シンの手が……私の手の平に すがる。

「 ねぇ……シン。」

「 何……?」

「 シンと私は こうやって 東京と金沢に離れてしまうのに……月は ずっとシンに ついて行くね…。

シンは、怖がって嫌がるかもしれないけれど、月は どこにいても……そこにある。

同じ……月なんだよね。」

「 ん……。そっか、そうだよね。」

「 一つしかなくて……この世に、たった一つしかなくて……私がここで見る月も シンがどこかで見る月も、同じ……なんだよね。」

「 ……うん。きっと この月は…東京にもついて来る。」

シンは、ゆっくり 月を見上げる。

私はシンの右手を 両手で握る。

大きくて肉厚はあるのに、細い指先……。

ゴツっとする 血管たち。

シンのTシャツに夜風が滑り込んで、身体のラインにシャツが絡みつく。

「 私も……ついて行きたいよ……」

私の声が 終わるか終わらないか…のうちに シンは、私を抱き寄せた。

「 シンは すごく嫌がるかもしれないけれど……
できるなら……月になって シンの足元を 照したい。シンの側で 輝きたいよ。」

シンに ついて行きたい。

「 紗奈……。」

「 月は、シンと同じペースで ついて行けるから……。」

彼は、私を抱きしめたまま もう一度……月を見上げる。

「 私……月になりたいよ。」


嘘……ついてた。

“ ここで待ってる ” とか……

“ 変わらず ここにいる ” なんて……

カッコつけてた。

その腕に すがって、ワガママを言って 困らせて……重い女だなんて 思われたくなくて…。

嘘……ついてた。


「 ホントは、ずっと一緒にいたかったよ。

シン…ダメだね 私……。

こんなこと言わずに、イイ女で見送りたかったのに。」

私は、自分の情けなさに 苦笑する。

「 紗奈……。 俺も同じ。」

シンは、笑って その腕に力を込める。