でも、わたしはそれ以上に嬉しい。
毎日ヨリの声が聞けるから。
たぶん、ヨリはわたしがヨリを好きなことを知らない。
「いえ、大丈夫です。
じゃあね、ソラ」
ヨリが家から遠ざかっていくのがわかる。
毎回この時間がいちばん淋しい。
嬉しい時間を待つ時間ほど長くて、見られる時間はすぐに終わってしまう。
ヨリが行ってしまうと窓にはもう用はなく、部屋を片付ける。
制服は見ないことにして。
机の上のゴミを集めてゴミ箱に入れ、たまに本棚の上を雑巾がけしたり、置物の上に溜まったホコリを取ったりする。
そうしているうちに、下から声がする。
「お母さん仕事に行ってくるからね」
「うん」
ドアが閉まって家の中にいる人がわたしだけになるとようやく実感する。
まるで、突然思い出すように、毎日。
ああ、わたしって不登校なんだ、と。


