紫苑くんはご飯の片付けまでしてくれた。
意外と家庭的なのね。

ひと段落ついたところで、彼に問いかけた。

「どうして帰りたくないの?」

「・・・」

下を向いて黙ったまま、何も話そうとはしない。

「場合によっては、私も何か力になれるかもしれないし……理由がわからないのに、いつまでもここに置いておくわけにはいかないよ」

数分後、ようやく顔を上げてゆっくりと口を開いた。

「……俺、家族がいないんです」

衝撃の告白に、どういう反応をすればいいのかわからない。

「両親は先日亡くなりました」

彼の声は微かに震えていた。

「頼れる親戚もいなくて、家は追い出されてどうしようもなくなって……このまま死ぬのかなって思っていたところで、貴女が助けてくれたんです」

「そうだったんだ…」

胸が苦しくなる。
私が手を差し伸べなかったら、彼は今頃どうしていたんだろうか。

「お姉さん…」

今にも泣き出しそうな彼を、思わずぎゅっと抱きしめた。

知らない男子高校生を抱きしめるなんて、大人としてどうかとは思うけど、今はそんなの関係ない。


「……俺を、捨てないで」


それは彼の、心からの叫びだった。