「紫苑くん、お腹空いたー」

「もう! いい雰囲気だったのに!」

「空腹は耐えられない…」

「まあ、侑李ちゃんらしいけどね。なに食べたい?」

「私の好きなハンバーグと、紫苑くんの好きなオムライスを合わせたやつ」

「“合わせたやつ”って……本当にそれでいいの?」

「今日は記念日でしょ? 2人の好きなものを2人で食べたいの!」

紫苑くんは私の頭を軽くぽんぽんっとしながら「可愛い」と呟いた。

「そ、そういうのはいいから…早く家に帰るよ」

「侑李ちゃん、照れてるの?」

「照れてない!」

「嘘だ〜」

「からかわないでよ」

恥ずかしくて顔を覆いたいのに、紫苑くんが手を離してくれない。

「紫苑くんのいじわる!」

「だって、侑李ちゃんが可愛いから」

「28のおばさんに“可愛い”は禁句です」

「可愛い可愛い可愛い!!」

「紫苑くん!」

「りんごみたいだね」

「……紫苑くんのバカ」

「え? お姉さん?」

焦りすぎて、お姉さん呼びに戻ってる。

俯いた私の顔を覗き込んで「ごめんね」と謝ってくる紫苑くん。

顔を上げてそのまま彼にキスをした。

「騙された? お姉さんの方が一枚上手だったかもね」

そう言って笑うと、紫苑くんはその場にしゃがみ込んで顔をうずめた。

「…やっぱり、可愛い」

紫苑くんの耳は真っ赤だった。