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 自宅の部屋のDVDプレイヤーに入れっぱなしだったソフトを取出し、どうせまた寒い思いをするなら、素早く行って帰って来れる手段は無いかと思案していた。
 そして元々は父が日本にいる時だけに、駅までの通勤で愛用していた自転車を物置から引っ張り出した。
 
 私は完全防寒装備をさらに強固なものにしようと、マフラーをミイラ男のように顔の周りにもグルグル巻いて、無灯火のまま自転車をかっ飛ばした。
 しばらく乗っていなかった自転車はあちこち錆付いていて、ペダルを漕ぐたびにカシャカシャと乾いた音を立てる。
 それと同時に緩やかな坂道を、ブレーキを軽く握り締めて下ると、キーキーとけたたましい小動物の悲鳴のような不快音と奇妙なハーモニーを奏でて、歩道の脇のブロック塀に反響していた。
 そうして通常は徒歩で10分ぐらいかかる道程を、僅か3分足らずに短縮して、ビデオ店に到着した。
 
 中近東の女性の民族衣裳のように眼の辺りだけを出して、顔の大部分をマフラーで覆っている私の登場に、あの店員さんは一瞬驚いていたけど、マフラーを取って正体が私だと分かると、ちょっと口元が緩んで、カウンター越しに再び待ち構えている。
 
 
「すみませんでした」
 
 返し損ねたDVDを店員さんに手渡した。
 
「寒い中、何度も足を運んで頂いてすみません」
 
 意外にも店員さんが返してくれた言葉は、優しい気遣いの言葉だった。
 無愛想で仏頂面の昨日の印象との違いに私は戸惑いながら、なんだか恥ずかしくなり、ペコリと頭を下げてカウンターの前を離れた。
 ただ、一日に二度も自宅とお店を往復したものだから、このまますんなりお店を出て帰るのも勿体ない気がして、少し店内を見て回ることにした。