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 早く暖房のきいた空間に入りたかった。
 
 深々と冷え込み始めた12月初旬の空気は、ヒリヒリと頬の表面や手袋をしていなかった手の甲に容赦なく突き刺さる。
 私は先に走って行った涼子を追い掛けようと、小走りから駆け足へと走力のギアをシフトアップさせた。
 
 やっとこの古びた駅前商店街のレンタルビデオ店の自動ドアの前に、息を切らせながら立つと、すでに涼子は店内の正面中央に位置する新作コーナーの前で、他のお客さんを押し退けて、我が物顔で物色している。
 端のDVDパッケージから順に手に取っては、表紙をじっと見たり、裏面を引っ繰り返して見入ったりして、映画の解説文やら、出演者などの記載されている情報を事細かに吟味しているようだ。
 
 
 つい数分前に、
 
「理英、競争だよ」
 
 そう勝手に宣言し、駅のコンコースから自動改札機を競馬のゲートのように抜け、猛然と走り出した涼子は、高校時代は陸上部の部長を務め、中距離選手の花形的存在として活躍していた。
 対照的に、私は室内で黙々と作業をするような、文科系の生徒の部類に属していた。
 特別に運動神経が鈍いとか、足が遅いという訳じゃなかったけど、どちらかというと文章を書いたり、絵を描いたりするほうが好きな性格だったから、周りからは地味な存在に認識されていたんじゃないかって自己推測している。
 ともかく、今ここで元陸上部のエースとまともに競争なんかしても何の得にもならないし、まるで勝算もない。
 ましてや勝ち負けを判定すること自体、全くもってナンセンスな話だ。