【完】さつきあめ

だけど光が優しく呼ぶ‘夕陽’は嫌いじゃなかった。
この先もずっと、光が夕陽と呼ぶときにだけわたしは弱さをさらけだすことが出来た。

「さくらの履歴書見ちゃった。良い名前だね。
俺夕方が1番好きだし、夕陽が朝日よりもずっと好き…
ふわっとオレンジの優しい色が空に広がってさ、今日も1日を終わらられるって安心するんだよな。
まぁ、いまは夜の仕事に就いちゃったから、夕陽は俺たちの始まりの時間になっちゃったけど」

その話をしている時の光は少し寂しそうに見えた。けれどすぐにいつもの笑顔を作る。

「知ってる?うちの会長は朝日って名前なんだ」

「知ってるよ」

それは何度も聞いた名前。
1日を始めるひかりと1日を終えるひかり。そんなところであんな男と繋がりがあるのはすごく嫌だった。


「なぁ、さくら、ふたりでいる時は俺を光って呼んで。
俺もふたりでいる時だけお前を夕陽って呼ぶから」

「わかった、光」

今度は無邪気な子供のような笑い。
この人の中には何人の自分がいて、そしてどれが本当の自分だったのだろうか。

「俺のお願い聞いてくれるっていったよね?」

「うん。でもわたし…そんな高いものも買えないし、光みたいにお金持ってないよ?
給料日あとだからまぁちょっとは余裕あるけどさー…」

「ぷぷっ!俺は夕陽に物を買ってもらおーなんて考えてねぇよ~!
本当に面白いやつ!
今日は夕陽と一緒に時間を過ごして、夕陽のことたくさん知りたい!」