さっきはるなから聞いた疑惑が真実味を帯びてくる。
それでも光の話をしなければ綾乃はいつも通り優しいから、時たま綾乃がわからなくなる。
光の話を出すと不機嫌になる。好きにならないほうがいいって言った。
綾乃の言葉が頭をぐるぐると回る。

「さくらちょっといい?」

高橋が呼ぶ。明日12時ね!と言って美優が手を振りながら店を後にした。

VIPルームに呼ばれ、高橋は真剣な顔をして煙草に火をつけた。

「どーしたの?」

ソファーに座り、足をぶらぶらとさせる。
高橋にもこの1か月たくさんのアドバイスを受けた。わたしの容姿のことだけじゃなく、接客についてや、あのお客さんの性格はこうだからこうした方が通ってくれるよ、とか
高橋のアドバイスは的を得ていて、ここまで売り上げが伸ばせたのも事実だった。

「とりあえず1か月おつかれさん。よく頑張ったと思う」

「えへへ、ありがとう」

「はるなさんや店の女の子との関係も良好だし、働きやすくなったと思う」

「まぁね」

「でも、俺はそれだけじゃ駄目だと思う」

神妙な顔つきで言った高橋の言葉に心臓がドキッとした。
いつもは悪ふざけをしている高橋が真剣な顔をしている時は確信をつく言葉を言うとき。

「この仕事についているなら、皆ライバルだよ。友達じゃない」


「でも…働きやすい…よ?」

「俺もずっと深海さんの作りたい店の考えには賛成だったんだ。
あの人は出世欲とかじゃなくてさ、キャストもお客さんも皆が笑い合えるお店を作りたいって気持ちもすごくわかるんだ。でもさくらは先月の売上表見てなんとも思わなかった?」

「…」

「俺は………嫌だった」

嫌だったと素直に言葉を口にする高橋。
わたしだってあの売上表を見て何も思わなかったわけじゃない。
友達を作りにこの職場に来てるつもりはないし、自分の中に成し遂げなくてはいけないことだってある。