「あのさ…」

「え?」

「何か飲めば?お前、さくらだっけ?すげーお喋りみたいだから喉も乾くだろーし、それにお前が飲んだらはるなの売り上げにもなるんだろ?」

可愛くないことを言っているけれど、ドリンクを注文していいということで
それはこの席にいていいという意でもある。

「ありがとうございます」

笑いながらドリンクをオーダーする。
その後も相変わらず口は悪かったけれど、浅井の目にわずかに笑みがこぼれているのを見逃さなかった。
ヘルプも大切な仕事。光の言っていた事が頭をよぎる。

「さくらさん、お願いします」

数10分たった頃、高橋がわたしを抜きにきた。

「ごちそうさまでした」そう言ってドリンクを飲み干して立ち上がろうとした瞬間。

「さくらっ!」

浅井は初めて名前を呼んでくれた。
恥ずかしそうに、鼻をかきながらぶっきらぼうに言う。

「この間は言い過ぎた。悪かった…。 今日はありがとう。ちょっと楽しかった」

もちろん本指名は特別なもの。
けれど、どんなお客さんであれど、楽しませて満足をさせるのがわたしの仕事。
その意味がようやく少しわかってきた。

「はぁ~…疲れたぁ~…」

卓から抜かれ、裏に入ると脱力。
そんなわたしの背中を高橋はぽんぽんと叩き「立派」と言った。
そこには深海もいて、柔らかく笑う。