軽い挑発には絶対にのらない。わたしがすべきことはそんな事じゃない。
はるなは今日も忙しそうだぞ、と誇らしげに言った後、違う席で笑っているはるなを見て、浅井は少しだけ寂しそうな顔をした。


「はるなさんは人気者ですからね」

「まぁ~な…お前と違ってな!」

「指名のお客さんもすごく多いから、浅井さんは寂しいですね」

そう言いながら、グラスをさしだす。
浅井はハッとした顔をして、グラスに口をつける。

「別に…そんな事はねぇ~けど…!!俺ははるなが頑張ってる姿も好きだし、それにはるなはすげぇ優しい奴だから人気あるのは仕方がねぇんだ」

「はるなさんが羨ましいな。そんな風に言ってくれるお客さんがいて。
はるなさんは幸せものですね!
優しいですもんね!」

誰にだって表の顔と裏の顔があって、はるなが浅井に見せた顔だって演技かもしれないけど紛れもないはるなの顔で、ここはお客さんに夢を見せる世界だ。
何も、誰も、間違っちゃいない。

「…まぁお前の言う通り寂しさも少しはあるけどね…」

溢れた本音の中に、人の良いところを見つける。
はるなさんが違う席で一喜一憂するたびに、浅井の視線が動く。…本当に惚れてるんだなぁ。そんな浅井をもう憎むことは出来なくなっていた。

「浅井さんもはるなさんと同じくらい優しいと思いますよ」


「へ?」

「きちんとはるなさんのことを考えているから」

「………」

暫くはるなの話をしていた。
相変わらず口は悪かったけれど、もう悪態をついてくることはなかった。