【完】さつきあめ


「そう?!」

「俺も仕事しててそういう才能のある人何回か見たことあるけれど、やっぱりそういう人ってなんか独特のオーラがあるよ!俺なんて凡人だからずっと平社員のまんまなんだろうな…ああいう人にはなれないよ…」

「ならなくていいと思う!ああいう人は自分勝手に人を傷つけたりするし、わたしは安川さんみたいな優しい人の方がずっといいと思う!!」

ごほんと咳払いして、光がちょうどわたしたちの前を通り過ぎる。聞かれてないよね…。そう思った瞬間 
ばちっと目が合うと、にやりと笑うから、その余裕の態度にやっぱり腹が立つ。

「ありがとう~!
さくらちゃんは本当に優しいね!なんか好きなもの飲んでね!昨日ヘルプで着いてくれた美優ちゃんもすごく良い子だったし、このお店は居心地がいいな~」

本当に優しいね、と言われて照れた。
本当に優しいのは安川の方だ。昨日指名で来てくれたお客さんたちといい、わたしは本当にツいている。

それからも安川と飲んで、今日は指名がかぶらなかったから帰るまでの2セットずっとつきっぱなしでいれた。 その間安川は何度も他の席につかなくてだいじょうぶ?俺のことは気にしなくていいから、と言ってくれた。恵まれたなぁと感じた瞬間だった。

ふとホールを見るとはるなは忙しそうに指名の席を回っていた。

ロッカーに貼られている全店舗の成績表を見てわかったことがある。はるなは指名の数が多い。その割には売り上げが少ない。多くは使わないけれど、持っているお客さんが多いということだ。それとは対照的だったのがナンバー2の綾乃だった。綾乃は1人が使う額が大きい。持っているお客さん1人1人が太客ということだ。
そしてそのすべてを兼ね備えていたのがお店はもちろん、全系列で1番のONEのナンバー1だった。

これはいまも変わらないことなんだけれど
指名、同伴、売り上げ、色々なもので順位づけされる世界。
その中でもわたしは指名が1番好きだった。沢山の人に指名されるほど、多くの人に必要とされていると錯覚できたからだ。
それだけこの世界は孤独でひとりぼっちと感じる時間が多かったんだ。