【完】さつきあめ

「安川さん…?!」

呼ばれた席に行って驚き。
昨日初指名してくれた安川がソファーに座っていた。
今日は営業をかけていない。朝イチで昨日のお礼のラインを送って、そのあと2~3回ラインが行き来しただけだ。

「さくらさんです」

背筋をのばし、右手をあげてわたしを紹介する。
初めて見る黒服として仕事をしている光。不覚にもかっこいいと思ってしまった。
けれど次の瞬間わたしにだけしか聞こえないように耳打ちをする。
「俺に付け回しされるのが怖くて指名呼んだか?」と呟かれた、文句のひとつでも言いたくなって振り返ったら、光は颯爽とホールの波へと消えていく。

…むかつく。思いながらも気を取り直し、安川に笑顔を作る。


「び、びっくりしちゃった!」

「昨日すごく楽しくて今日も会いたくなって来ちゃった!」

「ほんとーーーに嬉しい!!ありがとう!!」

「ねぇ、今の人かっこいいね。初めて来た日も昨日来た日も見なかったけど、目立つ人だね~!オーラがあるっていうか」

「え?!」

安川の視線がホールを追う。 同じように視線を動かすと、光がドリンクを運んだり、誰かに指示を出したり忙しそうにホールを動いていた。
悔しいけれどその姿は確かに洗練されていて、ここにいる誰よりも目立っていた。

「あぁ、あの人はうちの社長だよ」

「社長?!あんなに若いのに?社長なのにホールの仕事もしたりするんだね」


「いやあ…今日は特別というか…普段はホールの仕事しないで系列のお店行ったり来たり事務の仕事したりしてるよ…」

今日はわたしのせいで、とはとても言えなかった。

「へぇ。
でもやっぱり若くて社長っていうだけあってオーラあるよね」