「だいじょうぶ、あたし、辞めませんから」

「良かった~!!じゃ景気づけにシャンパンでも空けようか?さくらちゃんの好きな奴でいいよ!」

「ほんと~!嬉しい~!超元気出た~!」

笑っていても、話していても、さっき高橋から言われた言葉が心から離れる事はなかった。
忘れなきゃ。
それを忘れるようにお客さんから貰ったシャンパンをがぶ飲みした。
本当はこんな風に何かを考えるのを放棄したり、忘れようとしたりする事は間違っている。
それでもこれはわたしの悪い癖だ。
何かあったらすぐにお酒に逃げる。

「さくらぁ~…飲みすぎだよぉ…売り上げ上げたいのはわかるけど…」

「さくらちゃん、はいお水。今日は送りで帰る?」

美優と菫が心配そうにソファーで潰れたわたしの顔を覗きこむ。
菫が持ってきた水を口にするけれど、気持ち悪い。 水さえも体を受け付けない感じだ。

「送りはいいです…」

「じゃ、高橋くんに送ってもらう?」

「それもいいです…。あー…今日アフターの約束してたお客さんいたのになぁ~…」

「さくらちゃんが具合い悪そうだから無理しないでってお客さん言ってたわよ。
ほんと、さくらちゃんのお客さんは優しい人が多いわね」

「ははっ、そうですね。運だけはいいんです~…」

「あら、お客さんと嬢は鏡のような物よ。
優しい子には優しいお客さんがつくってね。
あたしが現役の頃は気性が荒くて、気の強いお客さんが多かったわ。そのぶんお金も沢山落としてくれたけど」

菫らしいエピソードだと、少し笑ってしまった。