【完】さつきあめ

光と深海の話に割って入ったのは、綾乃。
さっきの綾乃の歯切れの悪さといい、綾乃と光はきっと同じ考えを持っていたんだ。そんな事をぼんやりと考えていた。

「…わかりました」

深海は了承し、光は誰も見ずにお店を出て行った。
てっきり今日は光に褒めてもらえると思っていたのに、そんな自分の邪まな気持ち。それどころか、わたしなんか一切見ずに光はお店を出て行った。

「ちょっと~…怖すぎ…社長…」

「まぁあの人は仕事に関しては厳しい人だけど…
社長が言うほど深海さんが取った行動は甘いとは俺には思えない。深海さんの配慮がなければさくらだってこのお店にいれたかはわかんないから」

高橋の言葉ももっともで、あの日深海の前で泣いてしまったこと。
お客さんが怖くなったことも事実で、またはるなと直接向き合う事になればわたしは逃げていたかもしれない。それが自分自身の弱さであることに気が付かず。

「そぉだよぉ~!!深海さんは悪くないよ~…
ねぇ…深海さん気にすることないよ~…」

美優がすかさず深海に言うが、深海は黙ったまま何かを考えていた。

「あたしは有明に同意だけどな。
厳しい事を言うようだけど逃げてたっていつか向き合わないといけない日は必ず来るわ。
実際はるなも感じ取ったみたいだし、深海さんがさくらをかばうように見えるのは他の女の子たちからしたら贔屓にとって見れるのかもしれない」

やっぱり、綾乃と光は同じ思考。

「あぁ、綾乃と社長の言う通りだ。
さくら、なんかごめんな?」

深海がわたしの方を見て、申し訳なさそうに謝る。
何も言えなくて、苦笑いを浮かべ、首を横に振る。
深海が悪いわけじゃなかった。恥ずべきなのは自分の弱さだった。でもこのどこにも行きようのない宙ぶらりんな怒りは、光へ向いていた。
確かにわたしが悪い。けれどわたしをかばい続けてくれた深海を怒るのは許せなかった。

ときめきと胸の痛み。そして光へ初めて沸いた怒りという感情。