【完】さつきあめ


「お疲れ様」

更衣室に菫がやってきて、私たちを見て声を掛ける。
出勤前と変わらない顔色。
本人いわく、お酒がかなり強いらしい。 
菫はヘルプの席でもフリーの席でもよく飲む。もちろん女の子が沢山お酒を飲むのを喜ぶ席だと見極めての話だが。
ヘルプとして指名嬢の売り上げも上げてくれるし、会話も上手で、何よりもこんな綺麗な人がヘルプに着くのを喜ぶお客さんは沢山いた。

昔なじみのお客さんも指名で来てくれる事も多く、フリーに着いても大概のお客さんを自分の客にしてしまうのは才能というか経験のなせる業なのだと思う。
それでも菫は期間限定嬢だから、と笑って、指名の入ってない時は進んでヘルプも仕事をしてくれた。

「菫さん、今日はありがとうございました」

ぺこりと頭を下げると、菫は目を丸くしわたしを見た。

「こちらこそ、お席ではごちそうさまでした。
てか本当に驚くわー、さくらちゃんって本当に性格いいのね~!」

「いやいやんな事ないですってば…」

「あたしが現役の時はヘルプに着いてもらった女の子にお礼言った事なんてなかったわー!
若かったから好戦的でもあったし、ナンバー1だから当然とか思ってたもん!
さくらちゃんはヘルプに着くたびに毎日お礼言ってくれて、働いてる身としては気分がいいわね」

「ですよねぇ~!菫さん!
だからあたしさくらがナンバー1の店だと働きやすくって~!
あたしが今まで見てきたナンバー1ってちょー意地悪な女が多かったもん~!」

「あたしもその意地悪だった女のひとりだけどね」

菫が美優の頭を撫でながら微笑んだ。
優しくて、女神のように微笑む菫にそんな過去があったなんて想像もつかないんだけど
基本的に気が強い女の子が多い世界で、この人だって過去はプライドを持って仕事をしていた人のひとりだろう。
菫に頭を撫でられた美優は照れ臭そうに頬を染め、微笑む。女をも虜にしてしまう妖艶さは菫の持つ武器のひとつだろう。