【完】さつきあめ


「深海さん気にするこたぁないっすよ」

「そだよ~!深海さぁ~ん!はるなのはただの僻みなんだからぁ~!ちょっと新人の子が目立つとすぐにあ~なんだからさぁ。ナンバー1ならもっと自信持てばいいのにねぇ~!ねぇ!綾乃~?」

「…まぁね」

美優の言葉に高橋はうんうんと頷いていたけれど、綾乃は何故か歯切れの悪そうに言った。


そんな事を話していると、お店のドアが乱暴に開けられた。
そこに立っていたのは光だった。
能天気だったわたしは、今日のこともあって浮かれ気分で、光に報告したい事がたくさん頭にあって、何から言おう。指名のお客さんがいっぱい来てくれたの、社長の言う通り、一週間以内に小笠原さんが来てくれたんだよ!なんて事で頭がいっぱいだった。
そして、光とした賭けについても。


「社長!」

わたしが彼の名を呼ぶより早く、光は颯爽と深海の前に立ち腕を組む。
その表情が明らかに怒っているのはその場にいた誰もが感じ取れた事であって、同じくらいの背の高さなのに、一気に深海が小さく見えた。
まるでこれから言われる事を理解っていたように。

「どういうつもりだ?深海」

「…」

「店にずっと居なくたってなぁ、毎日覗いてりゃわかんだよ!
お前さくらとはるなを近づけないように付け回ししてんだろっ!どういうつもりだ?」

いつも茶化すように笑っていた光。そんな怒っている顔を見るのは初めてだった。
確かに光の言う通り、深海はずっと何も言わずにわたしを守ってくれていた。それはわたしも自分自身で痛感していたことで、初日以来はるなのヘルプにも着いていなかったし、はるなと同じ席のフリーにもついていなかたった。勿論今日のわたしの席にはるなやはるなの取り巻きたちも着かせなかったし、それがわたしを守る行為にはるなには見えたのならば…それは贔屓になるのかもしれない。

「ちょっと社長待ってくださいよ!深海さんはさくらの為に働きやすい付け回しをしただけですよ?!深海さんの事を怒るのはおかしくないですか?!
事実はるながさくらに強く当たっているのは誰が見ても一目瞭然だ!」

「お前は黙ってろ!」