【完】さつきあめ

「あと、君は有明くんの言った通りの女の子みたいだね」

その頃からだろう。
わたしがお客さんのことをノートに記しはじめたのは。
初めて会ったお客さんも、フリーで着いたお客さんも、ヘルプで着いたお客さんも。勿論本指名で来てくれたお客さんのことも、その日何を喋り、どんなものを飲み、何が好きで、何が苦手か細かく記入をし始めた。忘れたくないことを、ずっと忘れないように。

営業終了後。いつも気難しい顔をしている深海の嬉しそうな顔を見ることが多かったこと。それがわたしを嬉しい気持ちにさせたこと。そして、早く今日起こったことを光に報告したくてたまらなかった。

深海と高橋、そして美優や綾乃とお客さんのいなくなったホールで皆はわたしをずっと褒めてくれていた。今日は慌ただしく動いたせいであんまり着けないお客さんもいたので初めてのアフターの約束もしていたのだけれど、来てくれないかな、と密かに光が現れるのを待っていた。

「ふん。ばっかみたい。調子にのっちゃって」

着替えを済ませたはるながわたしを睨みつけ、すぐに顔をそむけた。

「深海さんもその子ばっかり贔屓してるって女の子たち言ってたよぉ~?!店長がそんなんで本当にいいのかしらね~?!それともその子と出来てたりして」

はるなの言葉は止まらない。
高橋が何かをはるなに言いかけた時、深海あそれを静止した。

「別に俺は贔屓なんてしてない。俺は俺の仕事をしてるだけだ」

感情の見えない瞳は出会った頃のままで。
確かに感情の読みづらいポーカーフェイスの深海は女の子たちからはあまり良く思われる店長ではないと綾乃がいつか言っていた。けれどはるなの発言はわたしからの嫌悪感から出るものであるのは一目瞭然で、わたしのせいで深海がはるなに嫌味を言われるのはとても嫌だった。

「もっと店長らしくしてよ!」

そう言い残し、踵を返しはるなはお店を出て行った。