「さくらさ、とりあえず七色が元に戻るまでここにいようって思ってるんだろ?」

核心をついた朝日の言葉に心臓が跳ね上がるかと思った。

「お前は、傷ついたものを無下に捨てられる性格じゃねぇ。
そのくらい俺にもわかる。でもそういう同情で俺のところにいるなら、それは止めてくれ」

はっきりと言われ、自分の卑しい気持ちに気づく。
わたしは朝日の気持ちに応えられない。
でもここで七色を辞めて光と結婚すれば、自分の中の罪悪感が残る。
わたしは結局光のことより朝日の気持ちより、自分が1番傷つかない道ばかりを選びたがる。

「宮沢さん…」

「俺の前から消えてくれ。そうじゃなきゃ、俺は、お前の事もあの時のように…」

ぎゅっと握りしめた、朝日の右手が震えている。
鞄の中の携帯は鳴りやまない。
欲しい物何かひとつを手に入れる事さえ、何かを捨てる事と対義だ。
欲しい物、どうしても手に入れたかった物
わたしは一体何が1番欲しいというのだろうか。
何を捨てれば取り返しのつかない事になるのだろうか。

わたしたちの選ぶ道は選択の連続だ。
何かを選べば、何かを失う。失った後にそれが1番大切だった事に気づく事だってあるだろう。
あの時のわたしの全ての中心に光がいて、わたしが選びたかったものの全てに光が入っていた。
光、あなたは知っていたはず。わたしがどれだけあなたが必要で、あなたに必要とされたかったのかも
けれど今自分の選んだ道を悔いてばかりもいない。
どうしても捨てたくなくて、けれど捨てるしかなかった日々さえ、わたしは愛しい過去として歩いて行こうとしている。