【完】さつきあめ

「さくらさんお願いします」

とはいえ、今日は指名が重なっている。
数10分後に深海は席からわたしを抜きにくる。
それと同時に小笠原も「僕もそろそろ帰るので」と言った。

「でも…まだ1セットたってないし…」

帰ってほしくなかったのは、延長にしたかたったとかじゃなく
ただ単純にもっと話をしたかったのと、この先小笠原がわたしを指名し続けてくれる保証がなく、今日のような気まぐれはもう起こらないんじゃないかって思ったからだった。
まるでその考えを見透かすように、小笠原は深海に言った。

「深海くん。良い女の子をいれたね。
今度は接待でシーズンズを使わせてもらおうと思うんだけど、いいかな?」

「はい!もちろんです!小笠原さんなら大歓迎ですよ!ありがとうございます!」

そしてわたしの方を見つめて「もちろん、僕個人としてもさくらさんに会いにきたいと思う。君に読ませたい本も、君に食べさせたい料理のお店もあるんだ。君と僕の感性はちょっと似ているようだから、きっと喜んでもらえると思う。今度仕事の前に食事でもどう?」と言う。

それはわたしをこの先も指名し続けていくということ。
同伴もしたいと思っているということの意だったのだと思うのだけれど、お客さんとしてではなく、この先も小笠原と切れない縁が繋がれていくと思えばそれ以上に嬉しいことはない。

満面の笑顔で答えた。

「はい!!もちろん!!」

その日、携帯の番号を初めて交換した。