好きだとか嫌いだとかそういう次元の話はもうどうでもいい。
けれど光が南と少しの間でも暮らしていた事実は変わらなくて、この部屋にはあの頃と違って、ところどころに女の匂いを感じさせる。

「ここらの眺めも、なかなかいいんだ」

光がベランダに行き、煙草をくわえる。
隣に並び、ベランダから広がる夜のネオンを見つめていた。
一緒のマンションでこうやっていっつもこの光りを見つめていた。

変わらないように見えた景色だって、少しずつ変わっていって、姿を変えていく。
街の光りも、私たちの心さえも変わっていく。

「今度は一緒に暮らそうか、同じマンションじゃなくて、同じ家で。
前の家よりちょっと広くなったし」

「この家は嫌」

誰かと光が暮らした家で、何もなかったように一緒に暮らす事なんて出来ない。

「じゃあ、引っ越そうか。もっといいところ。宮沢さんみたいに大きなマンション借りちゃうか」

朝日の名前はいま、シャレにならない。
じぃっと光を見つめると、「冗談だよ」と苦笑いした。

「光は…そんなに宮沢さんが嫌いなの?」

わたしの問いかけに光が顔を歪ませる。
煙草持つ左の手首。朝日と似ている腕時計だけが煌びやかな光りを放っている。
光の顔を見る、というよりかは少し目線を落として、煙草を持つ左手ばかり見ていた。