「お父さんに…?」
「あぁ、いつも俺を軽蔑するような目で見て来たからな。
まぁ母親は風俗嬢だった。俺もあの父親の本当の子供だったか定かじゃねぇけどな。いまになれば父親の気持ちもわかるな」
「そんなの…宮沢さんはわかんなくていいんだよ…。
だって全部宮沢さんのせいじゃない。そんな事で宮沢さんが傷つく事なんかない…!」
わたしの言葉を聞いて、朝日は柔らかく笑った。
「結局家は居ずらくなって中学出てすぐ出たんだけど、すぐにキャバクラのボーイから初めて、今のお店を持った。あんな父親に負けたくないって気持ちが大きかったのかな?
いつか見返してやるって、くだらねぇ考えだな」
「宮沢さん…」
「俺はいつも女に、母親を重ねて見てたのかも。
俺の理想としてる母親。こうだったらいいな、とか、ああだったらいいなって子供の頃からずっと想像してた。
さくら、お前は俺が想像してた母親像まんまの女なのかもしれない。
だから俺はこんなにもお前が好きなのかもしれない」
余りにもはっきりと、強い瞳で言うから
わたしはいつもこの人の目を逸らしてしまう。
だってきっと、わたしは朝日の思っているような女じゃない。
それに朝日は、わたしじゃなくて、わたしの先に違うさくらを見ているから。
「携帯鳴ってるぞ」
食べ終わったお皿を片づけにキッチンに立つ朝日。
テーブルの上に置いた携帯が雨音と混ざり合って、バイブ音を刻む。
画面には、光と出ていた。
それでもわたしは、その電話を取る事が出来なかった。
傷ついたような横顔を見せた朝日が気になって仕方がなくって、その電話に出る事がどうしても出来なかったんだ。