そんなわたしがここへ来てすること言えばフリー回りか、誰かのヘルプにつくこと。
深海が配慮してくれているのかフリーでもヘルプでもはるなやはるなの取り巻きたちとは関わらないようにしてくれて、仕事がしやすかった。その深海の甘さが少し疑問に残ったが、いつかはるなと向き合わないといけない日がくる予感がしていたからだ。

でも本指名も返せていないいま、考えることではなかったのだけれど。

「大丈夫だろ」

わたしたちの話を聞いていた高橋はそんな呑気なことを言ってくる。

週末の夜は早い時間から賑わっていて、わたしの不安を加速させる。
次々と指名で抜かれていく女の子たち。
少しだけ、光の言葉に期待していた。けれどそんな小さい期待さえ、半ば諦めかけていた時だった。

「さくらさん、お願いします」

にっこりと笑う高橋。その表情が心なしかいつもより明るく見えた。

「指名ですよ」

振り返ったら、高橋とおんなじ笑顔で美優と綾乃が笑っていた。

「ライン毎日貰ってたら会いたくなっちゃって」

席についた瞬間照れ臭そうに笑ったのは、フリーでついたサラリーマンの安川さん。
初指名ですよって言ったら、何か嬉しいなって言ってくれた。わたしの方がずっと嬉しかっただろう。けれど嬉しいサプライズはそれだけではなかった。

「本当に本当に嬉しいんです!」

「いやぁそこまで喜ばれると指名しがいがあるっていうか…
実はこういうお店で女の子を指名するのは初めてなんだ…」

「初指名同士ですね」

グラスを何回も合わせ、ふたりで笑う。