「それに比べて、さくらは俺とは正反対の人間だよね」

「え?」

「自分が恥ずかしいと思ってることを素直に人に言えたり
きっと俺と違って生まれも育ちもいいんだろうな」

「あたしは…そんな事ありません…。社長のこともそんな風に思ったりしていません…」

「俺のことはどうでもいいから。
今日は本当に家に送っていくだけだから、送っていく途中に何があったか話してみろ。一応社長だから相談に乗るよ」

「…別に誰かに何かをされたとか、誰かのせいじゃないんです。
ただ自分で自分に嫌気のさしてしまうことが多くて。頑張ろうと思ってもすぐに挫けたり、ゆらゆら人の言葉に揺れてしまう自分が許せないだけで…」

「今日さ…」

「え?」

赤信号で車が止まる。

薄暗い車内で目が合う。

まるで時が止まったかのような時間が流れる。少し音量を落とした音楽だけが時間を止めた車内で静かに響く。

「ONEに小笠原さんが来てたんだ」

その言葉で止まっていた時間が車と共に駆け抜けるようなスピードで動き出した。
ONEに小笠原が来ていたということは、ゆりを指名しにお店にやってきた、ということだからだ。

「小笠原さんはONEのナンバー1の子を指名しているんだ。
で、小笠原さんはうちの上客なわけで、俺も行ける時は挨拶しにいったりしてるんだ。

わかるよね?小笠原さん。さくらの体入の時にフリーで最後についたお客さん」

「わかります…」

「その小笠原さんが、さくらの話をしてきたんだ」