「綾乃ちゃんって光の事お兄ちゃんって呼ばないんだね」
気まずさのせいか、話を変えた。
「あぁ、お兄ちゃん2人いるからね。どっちもお兄ちゃんなのに、どっちかをお兄ちゃんって呼べないじゃない。だから昔から名前で呼んでる」
「あぁ、そう言えば腹違いの兄貴がいるって光が言ってた。
ね、光って小さいころどんな子供だったの?」
「んー昔から優しかった。光から聞いてるかもしれないけど、うちって結構複雑で裕福な家庭だったの。あたしと光の母親ってのがあんまり母親っぽくなかったし、父親も父親で外で女作るくらいだからわかるでしょ?
でもお金だけはあったから、習い事もやらされて、会社をやってるから父親は光にそれを継がせるためにいわゆる英才教育って奴をしてたわね」
「あー、だから光あんなに頭がいいのか」
「光は昔から何でも持っていたから、自分の持ってるもの誰かが欲しがったら、何でも譲ってあげるような子供だったよ。あたしも小さいころ、光の欲しがってるもの欲しいって言ったらなんでもくれたわ」
「いいお兄ちゃんだね…」
「…それが良かったのか、あたしには今となってはわかんない」
「ねぇ、会社を継ぐって、光の上にお兄ちゃんがいたんでしょう?なのに、光なの?」
わたしはふと、疑問に思った事を口にする。
綾乃の表情が一瞬曇った気がする。
「外で作った子供は所詮よその子ってあたしの母親は言ってた…。
でも小さいころはそんなの気にも留めなかった。3人でずっと仲良くて、光ももう1人のお兄ちゃんもあたしは好きだった…。
でも、大きくなって色々な事がわかった時、光は何でも与えられて、もう1人のお兄ちゃんは何ひとつ与えられなかった存在だって気づいた。
気づいた時には、もう皆バラバラだった…」
「綾乃ちゃん、もう1人のお兄ちゃんには今でも会ってるの?」



